「距離を結び直す」
私の制作は、他者と関係性を作るところから始まります。
非対面で行う《交換日記 ser.》と、対面ワークショップとして実施する「刺繍で、もやい直す」は、一見異なる形式をとりながらも、いずれも参加者との距離を扱う点で共通しています。
他者との距離感に関心を持つようになった背景には、新型コロナウイルス感染症いわゆる「コロナ禍」の経験があります。非対面のコミュニケーション手段が主流となる中で、ただ、画面上で交わされる言葉に私は、相手の感情が見えない記号に感じられ、関係性が築かれる感覚が持てませんでした。そこに、色を感じませんでした。
私が絵を描く動機は子どもの頃から変わりません。信頼できる誰かに絵を見せるためです。
そのため、私の制作は、その「誰か」との関係をつくることから始まります。
2022年より非対面の《交換日記 ser.》を開始し、2026年には対面のワークショップ「刺繍で、もやい直す」を展開しています。これらの実践に共通するのは、「目を合わせないこと」と、「他者の一部を預かり、作品とすること」です。
《交換日記 ser.》では、相手の綴った日記を預かり、それをもとに肖像作品を制作します。日記そのものも作品として展示をします。
一方、「刺繍で、もやい直す」では、刺繍を行いながら他愛のない会話を交わします。視線は手元に落ち、互いの顔を正面から捉えることはありません。制作された刺繍は作家が預かり、再構成され、一つの作品へと縫い直されます。
これらの制作において目的としているのは、単に関係性をつくることではありません。
私が扱っているのは、「距離をどのように結ぶか」ということです。
距離を結ぶとは、自分にとって適切な距離を見出し、他者との関係を結び直すことを指します。
目を合わせず、身体だけを向き合わせ、
ことばを交わす。
直接的な接触や強い共有を前提としないこうしたコミュニケーションは、他者とのあいだに適切な距離を生み出すと考えています。
それは、名前も学年も知らないまま
公園で遊んだ子どもの頃の関係に近い。
緩やかにつながり、自然とほどけ、
再会したときにわずかな気まずさを伴うような距離感。
そのような関係こそが、他者との適切な距離ではないかという仮説のもと、制作を続けています。
飯島小雪